モテの聖地へ行こう5
2020/01/24
新宿2丁目でうろうろしていた半年間。もう10年くらいたつけど、Mさんというレズビアンと友達になりました。ものすごい常識人で大企業の出世街道まっしぐらのエリートサラリーマンでした。自分のことを男だと思っているのでいつもスーツを着ていました。
小柄でショートカットで美人ではないけど賢い感じで、変な女が多い新宿2丁目で超まともなMさんに私はなついていました。Mさんも私ことは妹のように接してくれて、話も普通で面白みはないけどとても良い人だと私は好きでした。
「ちひろは恋愛対象じゃない」
Mさんは言いました。というか、2丁目の女ども全員に「ちひろは恋愛対象じゃない。趣味じゃない。性的に興奮しない。好みじゃない。色気がない。そそられない。ガキ。顔が丸い。その丸顔がダメ。雰囲気が無理。でも友達としてはいい子」と言われるのです。いや、いいんだけど?いいんだけど?
とても受けが悪いのです。なんか、いい人だけど恋愛対象じゃない、みたいな「いい人止まり」らしい。いや、本当にそれでいいんだけど?
むしろオネエのゲイに抱き着かれて「この子人として凄い好き~。可愛い~」と言われる始末。まあ、どちらにせよ恋愛対象ではないわな。いや、それでいいんだけど?
Mさんには好きな女がいて、悪い女、なんです。「やめなよ」と言ってもやめられないMさん。悪女は黒髪で整った顔はしているけど地味な女性。2丁目の女どもは恋愛対象が男じゃないから男を意識した服装や、それを嫌がって女子受けする格好をするような子は少ない。若い子はおしゃれな子もいるけど、服装にあまり意識しない人が多い。
3人でバーで飲んで、色気のない私と、真面目なMさんにあっという間に飽きた悪女は「もう帰る」と言って席を立ちました。ノンケの私がいるから面白がってMさんの誘いに乗ったのだけど、ごめんねMさん!私、イケてなくて!飽きさせてしまいました。Mさんが悪女のこと好きなのを知っているくせに適当なあしらい。
「ごめん、力になれなくて」私は謝りながら悪女が出口に向かうのを見ていました。
店の入り口に近い席に、一人飲んでいる雌豹みたいな女がいました。カーキのミリタリーシャツを着て茶髪のロングヘア。濃いアイメイクが挑発的でエロい色気を醸し出している。美人。上から目線で彼女に見下されたい衝動に駆られてしまいそうな雰囲気のある女。その女の目が「物色」の動きをして、悪女がすれ違う瞬間、悪女の腕をエロい仕草で触りました。
二人は少し見つめあって、悪女はしなだれるように女豹の隣に座りました。女豹は、甘えた猫の頭を抱くように悪女を扱い、二人きりの世界が完成してしまいました。
オイオイオイオイオイ!
「なっにー!あの女!遠慮しろって!配慮なし?配慮なし!?いいの!?Mさん?いいの!?あんな女でいいの?あんなんでいいの!?腐っているよ!あの女腐っているよ!」
「ちひろは優しいね。ありがとう。本気でキレてくれてありがとう。でも、あいつのああいうところが好きなんだよ。たまらないんだよ」
Mさーん!趣味悪いよ!自滅系ですか!?後日私は切れまくって2丁目のママや客らに事の顛末を話しました。
「わかるー。たまらないのよね、そういう女」
ママは言いました。ほかの人たちもそれでいいみたい。で、そういう感覚が分からない私は「ガキ」と言われました。悪女みたいなタイプに翻弄されたいみたいで、彼女は超モテ女とのこと。
2丁目はネコ(女役)タチ(男役)で、悪女はネコ。ビアンの「モテの聖域」は私には異世界すぎました。