モテの聖地へ行こう2
2019/12/22
前回、夫が最強の「病みモテ」男だということをカミングアウトしましたが、冗談ではなく恐ろしいほどに女がすり寄ってくるのです。職業的にもモテるのでちょっと怖い感じ。
女だけでなく男も。「いい人」につけ込みたい人種がとぐろを巻いているのです。それが不思議と「既婚者」という肩書があるだけでぴたりと止むから面白い。
今日は、「モテの聖地」に住む男の話をしようと思います。彼と出会ったのは10年くらい前の新宿2丁目。当時私は新宿1丁目に住んでいて裏が2丁目でした。ミックスバー(老若男女入店可)で飲んでいたら、目の覚めるような美しい男が店に入ってきました。
店内はざわめき皆(大体ゲイ)が口々に「王子!王子様だ!」叫んでワーッとその男の周りを取り囲んだのです。その男は初めての店だったけどすでにアイドルのような扱いで皆からのスキンシップを受けまくっていました。
彼はどこに行ってもあだ名が「王子」らしい。私は衝撃を受けました。こんなに現実離れしたファンタジーみたいな男がいることに!そして、そんな王子には悪趣味なファッションセンスの女がぴたりとへばりついて甲斐甲斐しく世話をしている様に!王子は何もしない。微笑むだけで、お酒やおしぼりの世話は全て悪趣味女がやる。
もう奉仕の域に達するくらい尽くしまくって、王子はそれが空気みたいに普通らしい。お会計も王子の服も、カバンも全て女が買い与えたもので、誰かが話しかけても女が代わりに返事している。
王子の美しさに人生の全てをささげて女は生きていました。ゲイの王子に尽くしても報われないのに!そんな女を2丁目では「おかまの底にこびりつくおこげ」つまり「おこげ」というらしいです。
高濃度の「おこげ」を目の当たりにして私は超衝撃を受けました。こんな無意味なことに人生を費やせるこの「おこげ」を見て心臓がドキドキしてきました。一体どういう神経構造で生きているのか気になり私は彼女に話しかけました。彼女は答えました。
「美しい男が昔から好きだったの。どうしようもないの。止められないの」
「他人にお金を使うより、そのお金で自分がきれいになって誰かに愛されたいとは思わないの?私にはそういう欲があるの。自分が好きなの。」
「欲・・・。そうねー。王子の今日のスーツも私が選んだの。昔の写真見る?」
「んんん?王子野暮ったい!王子じゃない!フツー。」
「そうなの。初めて会ったとき原石を発見したと思ったの。だからこの男が輝くのを見て、私が育てたという快感がたまらないの」
「確かにそれは楽しいわ。不毛だけど超楽しいわ!育成ゲームみたい」
「不毛よ。凄く不毛。全部わかってしていることだからいいの。ただ・・・」
そう言って彼女は少し王子をじっと見つめて大きな声で言いました。
「私!王子の子供が欲しい!人工授精でいいから欲しい!」
女の声はサラリと王子にスルーされ、王子を取り巻く会話の中にかき消えました。彼女は俯いてグラスを少し揺らし、ため息をつきました。胸をえぐられるような感覚に襲われて、私は言いました。
「私、何だか貴女のこと好きだわ。気が済むまでやったらいいわ」
「本当はもうダメだってわかっている、こんなことやっても無駄だって」
「貴女は母性があるから。私みたいな自分にしか興味がないような人間じゃないから、尽くしてしまうのね。そういうのうらやましい。私にはないから」
「どうしてそんなに優しいの?おかしいでしょ?私」
「おかしいから好きなのよ。ものすごくフツーの幸せが似合いそうな人なのに、面食いでゲイが好きだから」
「幸せ・・・。私自分の幸せって考えたことがないの。幸せ・・・幸せ・・・。そう、私の幸せは美しい王子の傍に1秒でも長くいられること!そうよ!王子にだって旬があるわ!数年たてば顔も劣化するわ。今しかないのよ!今私は楽しむのよ!この男は私を傍に置いてくれる。こんな機会二度とないわよ。こんなに美しくて私の言うこと聞いてくれて傍に置いてくれるなんて!これは私の楽しみなのよ!私は楽しむわよー!」
王子は、話も面白くない、知性もない、サービス精神も、なーんにもない。なーんにもしない。しゃべりもしない。ただひたすらに美しいだけの王子。何考えてるんだろー、この男は、と思ったけど、鉄壁の王子のほほえみの前には感情すら分かりませんでした。
結論。「モテの聖地」に住む男のことはよくわかりませんでした。ただ、「おこげ」が変な女ということは分かりました。自分の幸せを考えることができない悲しい歪んだ女でした。